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「日本という国は、どこへ行ってもきれい。
 ところが香港という街は、適当にきれいで、適当に汚ない。
 だから、住んでいてすごく人間らしい。」


 偶然見ていたテレビ番組で、あるジャーナリストが香港を評して言った言葉です。
 あまりにも上手いことを言うので、思わず唸ってしまったほどでした。

 父の仕事の都合で、幼少時代を香港で過ごしたため、
私にとってこの町は、日本に次ぐ第二の故郷のような場所。
 大好きで、その魅力を深く知っているつもりでいて、
実は何も分かっていないような、神秘的な存在。
 「自分の原点、育った場所を深く知りたい」と、いつしか無意識のうちに祈るようになり、
そんな時、友人がこの本を紹介してくれました。
 この本に出会えた縁を貴重に思うと同時に、心から感謝しています。


 本書は、ノンフィクション作家であり、学生時代に一年間、中文大学(子供の頃、家族と散歩しました)に
留学した経験も持つ著者が、香港の中国返還の瞬間(1997年7月1日)を体験するため、
2年にわたって香港で暮らした日々を綴ったノンフィクション。
 ただでさえ多面的で、まとめるのが至難の技に違いないこの町の様々なワンシーンを、
ピタリとくる言葉で言い当て、キレのいい文体でグイグイ読ませていきます。
 言葉に命が宿るってこういうことなのかと思うくらい。
香港に生きる人々の息遣いが伝わってくるような、錯覚に捉われます。


 私が印象的に感じたエピソードには二種類あって、一つは「今まで自分が知らなかった香港」、
もう一つは「自分がよく知っている香港」を発見できたものでした。
 前者において最も心に残っているのは、返還が決まってから、香港の政治が中国の支配下に
置かれることを嫌って、海外へ移住した香港人の行く末の話。
 中文大学(日本の「東大」のような存在)を卒業したエリート(筆者の友人)が、
カナダに脱出したものの現地で人種差別に会い、芝刈りのような肉体労働しか職もなく、
夢破れて香港に帰ってくるという、シビアな話が冒頭に出てきます。
 香港の人って、イギリスの植民地支配に(当然だけど)批判的で、
私の家の近所でもよくデモが行われていたけれど、返還が決まると、「今度は中国が嫌!」と
海外に脱出し始めたので、
幼かった私達にはその辺の事情が理解できませんでした(笑)
 「なんで?香港が元の持ち主の中国に返ってくることは、
いいことなんじゃないの?どうしてなの、お母さん?」
と質問するんだけど、母の説明がよくわからず混乱したっけ(^^;

 共産主義や文化大革命のことを知ったのは、日本に帰ってきてからのことだったけど、
海外に脱出した香港人の全てが上手く時代の波に乗って成功したわけではないことを、
初めて知りました。
 また、植民地時代にイギリス政府が福祉に全く力を入れなかったため、
世界中からキリスト教会が香港にやってきて、病院・孤児院・老人や難民の収容施設を立てた
という話も、初耳。
 街なかで見かけたシスターは、そういう目的で来ていたのかぁ。


 一方、「なぜか理由はわからないけど、中国的な文化が好き」という星野さんの感覚は、
そのまま私が持っているものと同じだと直感で分かりました。
 もちろん私は「外国人」として、「お客様」的な身分で香港に住んでいたにすぎず、
しかも両親が全てをお膳立てしてくれた安全空間でノホホンと、真の海外生活の苦労など
知らなかったわけですから、
「香港に暮らすことを理解しています」なんて偉そうなことは言えないのですが(^^;
 それでも、物心ついてから生きていた香港から、初めて日本にやってきた時は、
原因のわからない違和感を感じました。
 その違和感の正体が、この本を読んで初めて分かった気がします。
 以下、星野さんが指摘し、かつ私も大いに共感してしまった、
香港文化を決定づける3要素。


①The more, the merrier.=大勢の方が楽しい
 香港には、「うるさくてにぎやか」なことを良しとし、大勢で過ごすことを重んじる文化がある。
(詳細は本文198ページ) 
 家族や友達を大切にし、困った時に助け合おうとする精神も、日本よりやや強め。
 …なるほど、確かに中華料理って、大人数で丸テーブルを囲んで、みんなでお箸でつついて
食べるものね。
「古池や蛙飛び込む水の音」という俳句を生んだ、沈黙を愛する我が国とは、そう言う意味では
対照的かも。
 日本人は丁寧だけど、「相手に迷惑をかけたらどうしよう…」と深く考えすぎるあまり、
時に遠慮してしまいがちですよね(>_<)


②今を生きる!!
 日本と違い、香港では経済的にも政治的にも、今日と同じように明日が来るとは限らない。
文字通り「一寸先は闇」の毎日。
 多少の事故や誤算で動揺している暇があったら、がむしゃらに進んだ方が合理的。
 逆境は跳ね飛ばせ!成功率が低くても、安全でいられる保証などなくても、
やってみなければわからない。とりあえず、進むしかない。

 …こういう気合と勢いは、香港に限らず、急速に発展している国(昔の日本もそうだったのかな…。)
では、必ず見られる光景なのかもしれない。
 この「今を一生懸命生きよう」というエネルギーが、あの街をはちきれんばかりに満たしていたことを、
今更ながらに実感。

③自分の文化(=食文化)が一番!
 「国籍も出身地も言語も育った環境もバラバラの香港で、人々を一致団結させるだけの求心力を持つアイデンティティーは、唯一「食」に対する自信。外国に溶け込もうなんて、最初から考えてないんだ。」
(本文288ページ)


 ふむふむ。海外の文化を上手く取り入れることにも熱心な町でしたが(日本のアニメや
ファッション、イギリスのティー文化)、
これだけは誰にも負けない!譲らない!!…と香港の人々が口をそろえて断言できるのが、
食文化なんですよね。
 香港人と一緒にレストランに行くと、メニューを開いて何を注文するか議論するのに
平均30分はかかる…というのは体験済み。
 みんな、食べ物に関するこだわりがすさまじいので、議論は真剣、誰も妥協しない。
 香港にいた頃、私の両親もよく、店員さんに「こういう料理を食べたいのですが…」
と丁寧に説明し、納得できるご飯が運ばれてくるまで、精いっぱい努力していました。
 お父さん、お母さん、すごいなぁ~~、と、ボーっとしながら見ていたけれど、
日本に帰ってきたら、そんなことしなくなっちゃって、アラ不思議(笑)。
 しかし、何であるにせよ、自分の国、自分の文化が一番!!と言えるものが一つでもあるって、
素晴らしいことですよね


 最後に、タイトルについての感想です。

 初めてこのタイトルを目にした時、思い浮かべたのはもちろん、
“A rolling stone gathers no moss.”(転石、苔を結ばず)
という諺だったんですけど、これ実は、
「君が代」の歌詞とも、かけていたんですよね。
 つまり、「君が代は千代に八千代に、さざれ石の巌となりて苔のむすまで」安定した世を望む日本と、
常に猛烈なスピードで変化をし、過去を振り返らず明日へ進む香港を、
鮮やかに比較して見せていたのです。
 それに気がついた時、「やられたー!!」と思っちゃいました(笑)
 タイトルに始まり、タイトルに終わる。たった数文字で、筆者のあふれ出す渾身の思いを
全て受けとめ凌駕する、そんなインパクト大なタイトル。久しぶりに出会いました。


 古い記憶、思い出を大切にする情感も。
 変化を怖がらず、逆境に向かって突き進む勇気も。
 日本も香港も大好きだから、私は、両方手に入れたい。
そんな風に願ってしまうのは、欲張りかな?(笑)


 香港が好きな人も、あまり今まで興味がなかったという人も、
お気軽にコメント下さい♪
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2008.02.02 Sat l ノンフィクション l COM(0) TB(0) l top ▲

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